研修旅行の目的
Kura Masterには二つの目標があります。第一の目標は、日本酒や日本の蒸留酒をフランスで普及・推進すること。信頼できるパートナーとのネットワークを築き、日本のアルコール飲料の高品質さとその魅力をフランスに伝えることに全力を注いでいます。そしてもう一つの目標は、ソムリエやバーマン、カヴィスト(酒販業者)などのプロフェッショナルの教育です。こうした専門家たちに、新しい世代に日本の酒類を薦める「アドバイザー」としての役割を担ってもらうため、彼らの知識とスキルの向上に努めています。そこで毎年、日本の酒類文化に触れ深く学ぶ機会提供として、日本での研修旅行を開催しています。彼らは研修旅行後、日本からフランスに帰るときには写真や思い出とともに、両国間に新たなつながりを自分たちが築くのだという強い意志を持って帰国するのです。
2024年の研修旅行参加者
今回も、私たちは日本酒の世界とフランスのソムリエおよびバーテンダー業界の最前線に立つ優秀な代表者を選出し、日本にご招待しました。フランス国内で名高い5人のソムリエが参加しました。「パリ・ブレスト by クリスチャン・ル・スクール」のディレクター兼シェフソムリエ、ファビエン・ギルモ氏、「リッツ・パリ」のディレクター兼ソムリエ、フロリアン・ギヨト氏、フランス代表としてソムリエ世界大会にも出場したMOFソムリエ、パスカリン・ルペルティエ氏、「ジョルジュ・サンク・ホテル」と「プリンス・ド・ガル」のレストランで経験を積んだセドリック・モウポワン氏、そして二つ星レストラン「オーベルジュ・デュ・ペール・ビズ」のシェフソムリエ、マエヴァ・ルージュオレイユ氏です。
ワインの専門家に加え、4人のトップバーマンも参加しました。Kura Master本格焼酎・泡盛コンクールプレジデントであるMOFのクリストフ・ダヴォワンヌ氏、「21Grams」ディレクター、ロマン・ギャレゴ氏、カンヌの「ハリーズ・バー」のバー・マネージャーであるMOFのダヴィド・パランク氏、ストラスブールの「コードバー」のディレクター、カミーユ・トゥアン氏がいます。この9人のアンバサダーたちと共に、2024年の研修旅行はスタートしました。
2024年1月22日(月):大分到着
今回最初の訪問は大分県。小料理屋「花邨」で開催された7蔵元様との夕食会から始まりました。美味しい料理と共に熱意ある会話が交わされ、日本酒や焼酎について生産者の皆さんと直接意見交換を行いました。審査員代表団が特に気に入った銘柄については、各メンバーそれぞれその理由やフランスでの顧客に向けたマリアージュやカクテルのアイデアを提案しました。参加した酒蔵は以下の通りです。
2024年1月23日(火):初めての訪問
早朝に起床し、簡単な朝食を済ませた一行は、さっそく重要な訪問先へと向かいました。県職員のサポートを受け、9時には広大な敷地を持つ「三和酒類」の施設に到着。焼酎の歴史を辿り蒸留工程を学ぶための講義が行われ、審査員たちは熱心にその内容を学びました。基礎知識を身につけた後は酒蔵に入り、蔵人になった気分で製造工程を見学しました。杜氏の方からの説明により参加者は理解を深めることができました。見学の最後には、三和酒類の製品のテイスティングが行われ、意見が交わされました。
その後一行はバスで大麦畑へと向かいました。麦焼酎の原材料に関する説明を聞くと同時に、数百年の歴史を持つ古墳を目の当たりにし、日本の歴史にも触れることができました。昼食では、地域を代表するトップクラスのミクソロジストが手がけたカクテルが提供され、食事と共に楽しみました。
その後一行はバスで大麦畑へと向かいました。麦焼酎の原材料に関する説明を聞くと同時に、数百年の歴史を持つ古墳を目の当たりにし、日本の歴史にも触れることができました。昼食では、地域を代表するトップクラスのミクソロジストが手がけたカクテルが提供され、食事と共に楽しみました。
次の訪問は「常徳屋酒造場」。創業者のご家族の皆さんに温かく迎え入れていただき、情熱と熟練の技が随所に感じられる案内が行われました。長年のこだわりを詰め込んだ製品の一部も紹介され、特別な体験が提供されました。テイスティングセッションでは、参加者同士が意見交換をしつつ西洋料理に合わせた提案なども行われました。このような建設的な議論を通じ、焼酎のヨーロッパ市場との相性や可能性についての具体的な提案がなされ、互いの文化を尊重し合いながら有意義な時間が過ぎました。
一日の締めくくりには地域の蔵元たちが集まり、和やかな雰囲気の中で会話が弾むディナーが「Otto e Sette」で開かれました。
2024年1月24日(水):大分での雪
計画をどれほど入念に立てても自然の力には太刀打ちできないものです。この日、私たちの一行もその試練を経験することになりました。大雪の影響で、山間部の狭く曲がりくねった道が通行不可能となり、予定していた「八鹿酒造」の施設見学などを含む訪問が実現できなくなったのです。やむを得ず、新幹線で福岡へ移動することになり、午後は福岡市内で文化的な活動を行った後、焼き鳥を中心としたディナーに参加しました。焼き鳥は焼酎と特に相性が良いことで知られています。審査員たちは生産者の皆さんと直接語り合い、焼酎を味わいながら充実した時間を過ごしました。
2024年1月25日(木):福岡での実りある交流
福岡で訪れた「天盃酒造」では、日本全国放送のテレビ局を含むメディア取材も入り、審査員たちに次々とインタビューが行われました。また、審査員たちが行ったテイスティングの様子などが報道されました。
午前中の見学を終えた後、一行は九州の大手蒸留所数社が主催する大規模なセッションへと進みました。このセッションでは、地域を代表する16の蔵元とテーブルごとに交流し、それぞれの酒造りの特徴を直接知る機会を得ました。審査員たちは、すでに麦焼酎や芋焼酎の知識を得ていましたが、このセッションではさまざまな素材から作られる本格焼酎の多様な味わいを体験しました。さらに各製品についての配布や提供のアドバイスや、料理との組み合わせの提案を行い、日本の酒の魅力をフランス市場に適応させるための具体的なアイデアを共有しました。
その日の終わりには、串焼き店で懇親会が行われ、招待された蔵元と和やかな雰囲気の中で会話が弾みました。笑顔と温かな交流の中でありながら、プロフェッショナルとしての知識交換や意見交換がなされ、実りあるひとときを過ごしました。
2024年1月26日(金):佐賀県の発見
佐賀県ではまず「宗政酒造」を訪れました。蔵元さんからの簡潔でわかりやすい説明を受けた後、広大な酒造の設備を見学し、続いて非常に心地よい雰囲気の中で製品の試飲セッションに参加しました。試飲では、各人の意見が具体例を交えつつ詳しく表現され、ヨーロッパ市場における展望について新たな視点を提供する場ともなりました。
そして文化的な体験として、参加者は日本屈指の伝統的な窯元である有田焼の陶磁器テーマパークを訪問しました。ここは、日本でもっとも歴史と名声を持つ伝統的な陶器の産地の一つとして知られています。一行は、羨望の的である柿右衛門様式の継承者たちによる作品を目の当たりにすることができました。この様式は17世紀中頃に全盛期を迎え、その美しい色絵技法により、ヨーロッパでも非常に高く評価されました。西洋の陶器生産者たちが広く模倣したことでも知られています。この訪問は大変印象深く、感動的で、一行全員に忘れがたい思い出を残したことでしょう。
その後、岸川農園のビニールハウスでのいちご狩りを楽しむことができました。日本独自の多彩ないちごの品種を味わう機会となり、皆満足した様子でした。
2024年1月27日(土):茶道の道
「肥前小左衛門酒造」の明るく親しみやすい雰囲気と、情熱を持った社長の姿に、審査員たちは大いに感銘を受けました。高品質な焼酎を幅広く試飲し、その合間には全国・地元メディアのインタビューにも応じました。
午後は、再び日本の伝統文化に触れる素晴らしい時間となりました。最初の体験は、芦屋窯の里にある鋳物工房のミュージアムの訪問でした。そして、まるで時が止まったかのような感覚を味わった二つ目の体験、それが茶道と数百年にわたる伝統的な軽食を融合させた「茶懐石」の鑑賞でした。現地で体験しなければ得られない特別な瞬間であったことを深く実感しました。
しかし、特別な体験はこれだけでは終わりませんでした。一行は、短時間ながらも日本文化特有の「角打ち」を楽しむ機会を得ました。この場で彼らは、地元の人々と肩を並べてハイボールを飲み、隣の人々と気軽に会話を交わしました。これこそが、知らず知らずのうちに日本の「飲みニケーション」の魅力を味わう瞬間だったと言えるでしょう。
2024年1月28日(日):姫路、日本の城と世界遺産の芸術
日本滞在も終盤に差し掛かり、最後の訪問地の一つは姫路、そしてその旧名で知られる播磨地方でした。一行は姫路市長から温かく迎えられ、駅から姫路城の門まで散策を楽しむ中で、また新たな茶道の体験が待ち受けていました。今回の茶会は、前回の茶道師範と同じく、知恵深く丁寧な指導をしてくれる師範のもと、姫路城を望む好古園の庭園内で行われました。
17世紀に木造で建てられたこの名城は、1993年に世界遺産に登録された初の日本の城であり、今なおその美しさを世界中に誇っています。我々は、姫路の象徴ともいえるこの見事な城のガイド付き見学を堪能し、歴史の息吹を感じた後、城下町の散策を楽しむ自由時間も与えられました。
その後、一行は「田中酒造」の方々と合流し、数段重ねの美しい重箱に盛られた懐石料理を味わう特別な夕食会に参加しました。食事の合間には、蔵元の歴史や生産に関する興味深い議論が交わされました。(酒造のカタログと歴史についてはこちらをご参照ください)。
2024年1月29日(月):播磨、地域と認定ラベルの発見
「田中酒造」の施設を見学し、前夜の夕食で味わったお酒がどのように作られているのかをより深く理解する機会を得ました。また、「播磨」という名称で知られる地理的表示(GI:Geographical Indication)ラベルの生産についての知識を深めることができました。
その後の見学は地域内で続き、今度は日本酒以外のテーマに移り、非常に貴重で興味深い体験として、末廣醤油の工場を訪問しました。この訪問には、蒸留酒に情熱を注ぐパリのレストラン「Zakuro」のオーナーも途中から参加しました。
昼食には、前年にパリで審査員賞を受賞した「福西酒造」が主催する豪華な食事が提供され、一行は同酒造のさまざまな製品をテーブルで試飲し、それぞれを高い専門性と情熱、鋭い分析力をもってコメントしました。
その後の第三の訪問先は、ウイスキーが高い評価を受けている「江井ヶ嶋酒造」でした。同社のウイスキーはすでに海外でも成功を収めており、審査員達は蔵元とも迅速に打ち解け、和やかな雰囲気の中交流が行われました。
夜には「赤石酒類」の米澤氏を囲んだ盛大な夕食会が開かれ、一行はGI播磨の認定を受けた数多くの日本酒を味わいながら、一日を締めくくりました。
2024年1月30日(火):帰国と学びの活用へ
最終日。最後の訪問。そして最後の忘れられない瞬間。一行は前日に続いて「明石酒類」を訪問し、その施設を見学しました。その後、明石の街全体を巡るツアーが行われ、港では競りの様子を見学し、また高品質な海苔の加工現場も訪れました。さらに名物の「明石焼き」(たこ焼きの一種)や、評判の高い寿司店「寿司 麒麟」で、絶品の寿司を堪能しました。
この研修を通じて、日本とフランスの文化交流は深まり、9名の「生徒」たちは日本の地酒や蒸留酒の熱心な支持者として帰国の途につきました。彼らがフランスやヨーロッパにおいて日本の酒文化を広め、これからは力強い提唱者となることは間違いありません。日本の高品質な地酒・蒸留酒を広めるという高尚で価値ある取り組みにおいて、どちらの国も大きな恩恵を受けることでしょう。