第3回 Kura Master 審査員酒文化研修旅行


酒文化研修旅行の目的について

1月27日から2月5日までの10日に渡り、第3回目となるKura Master審査員酒文化研修旅行を実施致しました。この研修では、審査員として公平、公正に日本酒審査が行えるよう日本酒について正しく学ぶこと、また、フランスにおいて影響力、発信力の強いソムリエたちが、自ら日本酒を正しく伝えていくことを目的として実施しています。
研修では、昨年の受賞蔵などを訪問して日本酒の造りを学んだり、地方の歴史や日本の食文化に造詣を深めるほか、セミナーなどの場では多くの飲食関係者、各県や団体の関係者、また一般の方々と交流を深めました。こういった経験と学習を通して、フランスでの啓蒙の一助となることを願っております。

1月27日(月) -在日フランス大使館訪問後、石川県へ-

今回のツアーは、東京・広尾にある在日フランス大使館にてローラン・ピック駐日フランス大使との面談から始まりました。グザビエ・チュイザ審査委員長から、今後のフランスでのKura Masterの展望や日本酒業界への貢献と発展などが語られ、大使の暖かい歓迎の元で有意義な話し合いの場を設けることができました。

その後、一行は石川県・金沢へ。初日の夜は食事を楽しみながら、グザビエ氏が過去実施した本ツアーの体験を元に「明日から学ぶことが、ソムリエとしての仕事に今後どれほど役立つか」を伝えました。世界ソムリエコンクール2位でMOFの称号を持つダヴィッド・ビロー氏は、発酵酒である日本酒の製造法と発酵食品との共通性にとても興味があると語り、シャンパーニュ地方で25年のキャリアを持つフィリップ・ジャメス氏は、発泡が日本酒の糖度感を抑えることから、サケスパークリングの食中酒としての可能性を楽しみにしている、など皆それぞれの目的を抱えての日本訪問であることを熱く語り合いました。宮川運営委員長による、日本酒の歴史についてのレクチャーを楽しみながら、明日から始まる蔵元訪問や各地で行われるセミナーに大きな期待を寄せて長旅の初日を締め括りました。

在日フランス大使館にて準備会議

1月28日(火)-石川県にて①-

石川県知事・谷本正憲氏を訪問。昨年パリで締結した石川県とKura Masterとの協定の話題等を振り返りながら、知事からの励ましの言葉と合わせて、県から全員に九谷焼とガラスを合わせた酒器が贈呈されました。その後「ヤマト醤油味噌」を訪問し、発酵食文化の魅力を体験。移動の車内でもガイドの指導の元、石川県の文化や酒の勉強に興じます。

能登での昼食では、Kura Master2019プラチナ賞を受賞した「数馬酒造」の日本酒とのペアリングランチでした。この地は日本で三大いか漁港として知られており、いかとの相性をコンセプトにした「竹葉 いか純米」や、精米時の米粉や地元の水で育った、能登牛との相性が考えられた資源循環酒「能登牛純米」を堪能、その後、蔵を訪問致しました。

この日の夜は、金沢城に隣接する「ジャルダンポール・ボキューズ」にて、石川県の日本酒とフランス料理の特別夕食会が催されました。会場では6種の日本酒と6種の料理が提供されてペアリング。山廃の日本酒とフランス料理の相性の素晴らしさなどがソムリエから語られ、初日から大変盛り上がった夜になりました。

ヤマト醤油味噌

1月29日(水)-石川県にて②-

Kura Master2019純米酒部門Top5に輝いた「車多酒造」を訪問。日本酒の伝統的な造りの代表である山廃造りですが、今では日本酒全体の7~8%と僅かです。しかしながら車多酒造では生産酒の7割が山廃造り。仕込みからの日数別の酒母を試食するなど、山廃造りの醍醐味を味わう貴重な体験になりました。

その後、白山山麓の杉の森に囲まれた「小堀酒造店」を訪問。2005年に日本初の地理的表示「GI()」第一号である「白山」を表記することのできる数少ない1社であり、Kura Master2019の金賞受賞蔵元です。今回の訪問テーマは酒米違いの日本酒を知ること。兵庫県産山田錦、石川産五百万石、石川門、北陸12号、それぞれの米で作られた日本酒を試飲して学びました。
最後は県下最大の生産数を誇る「福光屋」を訪問。こちらも2019年の金賞受賞蔵元です。麹や熟成温度の違い、有機栽培米の日本酒など、異なる酒質のテイスティングに熱が入りました。

その後、約100名が参加する合同試飲セミナーが開催されました。石川県内8社の蔵元が自身の日本酒を説明、ソムリエがコメントをすると質疑応答が飛び交います。フランスや欧州の食中酒として日本酒が評価されるためのアドバイスや意見に会場の参加者からは驚きと感心の声が上がりました。
※GI:Geographical Indication(地理的表示)の略。農林水産物・食品等の名称であって、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質等の確立した特性が当該産地と結びついているということを特定できるもの。地理的表示として登録が認められた産品には、地理的表示と併せて登録標章(GIマーク)を付すことができる。




1月30日(木)-岐阜県にて①-

石川県訪問最終日は兼六園と金沢城を訪問の後、岐阜県・飛騨高山に移動。車窓の風景は白川郷から、藁葺き屋根の家に変わります。タイムスリップしたような田園風景に、ソムリエたちからは感嘆の声が上がりました。
早速、Kura Master2019プラチナ賞受賞蔵である「舩坂酒造店」へ。日本酒が出来上がった後の貯蔵から輸送体制までを考えた酒造りについての詳しい説明を受けました。また、アルコール添加された日本酒の元来の理由、変遷、そして現在の課題をわかりやすく解説して頂きました。さらにフランスで人気が高い、柚子酒や梅酒の試飲も行われました。

2軒目は、船板酒造からほど近い場所に位置する、古酒専門の酒造りで定評のある「川尻酒造場」へ。岐阜を代表する酒造好適米「ひだほまれ」にこだわった熟成酒の奥深さ、食中酒としての可能性を発見。10種の古酒が提案され、ソムリエ達は日本酒の持つ秘めた力に圧巻されました。

この日の夜は、「本陣平野屋別館」の女将から真心のこもったおもてなしに、皆、旅の疲れを癒されました。


1月31日(金)-岐阜県にて②-

岐阜県八百津町の「山田商店」を訪問。Kura Master 2019 Top5(純米吟醸酒部門)の受賞のみならず、2017年以降毎年プラチナ賞を獲得している蔵元です。こちらでは自社精米機を有しており、精米済みの米を購入して始める酒造りと、玄米から自社精米する酒造りの違いとこだわりが説明されました。その後、木曽川に面した別宅にて、2タイプの比較を繰り返すという方法で日本酒を利き分ける能力を磨きました。

午後は岐阜市にて、ソムリエや酒販店を対象にしたイベントを開催。第一部は宮川運営委員長による海外戦略セミナー、第二部はソムリエによる合同試飲会として12種の日本酒を利き酒。プロのコメントを真剣に書き取る参加者の姿が印象的でした。グザビエ・チュイザ審査委員長から、岐阜県の日本酒の魅力を発見できた滞在に感謝する一方で、「テロワールをアピールすることが海外に向かうパスポートである」と力説。地元の米、水、酵母がその土地の風景を消費者に伝える食中酒になることを伝えました。さらに日本で活躍するソムリエには、ワインだけでなく、この素晴らしい食中酒である日本酒とのペアリングを考えていくことを訴えました。


2月1日(土)-鹿児島にて①-

金沢と岐阜での研修を終えて、一行は九州地方へ移動。九州では、近年日本人に人気のある焼酎についても学びました。
この日は鹿児島県の「濱田酒造」を訪問。濱田酒造は明治時代より続く手造りの焼酎蔵として知られています。こちらでは、かつて金鉱として使われていた金山の奥深くに、焼酎の貯蔵蔵を保有しています。トロッコ電車に乗って奥深い山の中へ移動します。貯蔵庫の中は年間を通して気温が一定で、焼酎の貯蔵・熟成にとてもよい環境。ここに甕仕込みと甕貯蔵の蔵を構え、明治以前の焼酎づくりをコンセプトに、女性杜氏による焼酎づくりを行っています。世界でも例にない熟成環境を見学した後、訪問の思い出としてソムリエ全員が貯蔵甕にサインを。その後、黄麹、黒麹で造られた焼酎の比較試飲などを通して味わいを学びました。



2月2日(日)−3日(月)-鹿児島にて②③-

この日はフェリーに乗り、鹿児島湾に浮かぶ活火山の島、桜島へ。「農業法人 八千代伝酒造」八木社長とサツマイモ畑の前で合流。こちらでは自社農園を有し、芋焼酎の主原料であるサツマイモの自社栽培に取り組んでいます。八木社長の畑作業とサツマイモ作りへの思いをお聞きし、その後、猿ヶ城渓谷蒸溜所へ向かいます。ここでは特許を取得している吊るし芋方式を学び、焼酎の試飲を行いました。農業から醸造まで一連の工程に取り組み、鹿児島県の自然環境に適するサツマイモ作りから生み出される芋焼酎の未来に、皆大変興味を持ち真剣に学んでいました。

その後、鹿児島市内で宮川運営委員長による焼酎セミナーを開催。50本の九州地方の焼酎を対象にした合同試飲会が行われました。各ソムリエは、タイプ別に割り当てられた焼酎10本を試飲し、テイスティングシートを記入。コメントの発表や生産者からの質疑応答も飛び交い、密度の濃い交流の場が広がりました。



2月4日(火)-サケスパークリングの研修①-

本ツアーのオプション企画であったサケスパークリングの研修については、ソムリエ全員が参加を希望するという意欲の高さも見られ、一般社団法人Awa酒協会にご協力頂き、協会加盟蔵3蔵を訪問させて頂きました。
最初の訪問先は、埼玉県深谷市にある「滝澤酒造」。Kura Master2019スパークリングスタンダード部門にて2本の金賞を受賞しています。レンガ造りの煙突や麹室がとても歴史を感じる印象的な蔵。特許を取得したその製法などについて、社長自らから説明を頂きました。滝澤酒造ならではのロゼのサケスパークリングには、皆とても興味を示し、驚きの声が上がっていました。

その後、群馬県へ移動し川場村に位置する「永井酒造」へ。こちらもスパークリングスタンダード部門の金賞受賞蔵です。2008年、2009年のヴィンテージや、川場村特産の米「雪ほたか」を原料にしたものなど、貴重な4種類のサケスパークリングを試飲。こだわりの製法やそのクオリティの高さにソムリエたちの関心はさらに高まるばかりの一日となりました。



2月5日(水)-サケスパークリングの研修②-

研修最終日となるこの日は山梨県北杜市の「山梨銘醸」へ。こちらはKura Master2019スパークリングソフト部門でプラチナ賞を受賞されました。日本酒「七賢」の名前で名高いこの蔵は、明治天皇が山梨をご訪問された際にご宿泊の場とされたことでも大変よく知られています。
醸造責任者の北原氏に蔵の中をご案内頂き、酒造り、そして自然豊かな白州というこの地の水の素晴らしさなどをご説明頂きました。

その後、敷地内にあるレストランで、7種類のサケスパークリングのペアリングランチを。豊かな土壌で育まれた地元の米や旬の野菜を使った和食と、白州の水で作られた日本酒との相性をじっくりと味わう時間。世界の乾杯酒として名だたるシャンパンを生んだフランスで、日本酒市場をさらに拡大させる起爆剤になり得る、ピュアでエレガントな酒質だと、多くのソムリエが高く評価しました。


-終わりに-

第3回Kura Master酒文化研修旅行開催にあたり多くの皆様にご尽力頂きましたこと、Kura Master運営委員、審査員一同より心からの感謝の意を申し上げます。日本での学び、日本酒の素晴らしさをフランスに伝え、さらなるフランスでの日本酒市場拡大に繋げていくことを目指し邁進してまいります。

Photo: Jean Bernard


■ツアー参加審査員一覧

Xavier THUIZAT(グザビエ・チュイザ)Kura Master 審査委員長/5つ星ホテルクリヨン シェフ・ソムリエ
David BIRAUD(ダビド・ビロー)5つ星Hotel Mandarin Parisシェフ・ソムリエ /MOF(国家最優秀職人章)受賞
Philippe TROUSSARD(フィリップ・トルサール)Les Caudalies オーナーソムリエ/MOF(国家最優秀職人章)受賞
Philippe JAMESSE(フィリップ・ジャメス)コンサルタント会社フィリップ・ジャメス代表/2つ星レストラン ドメーヌ・レクレイエールの元シェフ・ソムリエ
Amandine PASTOUREL(アマンディーヌ・パストゥレル)1つ星レストラン La Dame de Pic シェフ・ソムリエ
Florence COIFFARD(フロレンス・コワファール)Sarl CLEONIE Papilles & Pupilles 創設者・支配人
Jean BERNARD(ジャン・ベルナール)ジャーナリスト。フランスのソムリエに最も購読されているTerre de Vinsのメインライター

■訪問先一覧(敬称略)

東京都:在日フランス大使館
石川県:ヤマト醤油味噌数馬酒造車多酒造小堀酒造店福光屋
岐阜県:船坂酒造店川尻酒造場山田商店
鹿児島県:濱田酒造八千代伝酒造
埼玉県:滝澤酒造
群馬県:永井酒造
山梨県:山梨銘醸


後援

Ambassade du Japon en France 在仏日本国大使館

Association des Sommeliers de Paris Ile-de-France

CLAIR

JETRO Paris

日本政府観光局(JNTO) - Japan National Tourism Organization

ダイヤモンドスポンサー

一般社団法人awa酒協会

岐阜県酒造組合連合会

長期熟成酒研究会

佐賀県